第5話「友好関係」

 

「着きましたよ」


その声と共に、俺が感じ取ったのは今までとは違った雰囲気。
ゆっくりと目を開けると、そこは水色と白が混ざった世界だった。
と、言うより、まだ空にいた。

じゃあ、俺は何でこんな所にいられるんだ? 浮いてんのか? 何もなしで?
大方、奴が変な力使ってるから、浮いてられるんだろうけど。
その割に、足からは固い地面を踏みしめている感覚がした。

何で? そう思って下を見ると、細々とした何か。建物とか車とかその他もろもろが。
うわー、何だ、この高さ。
別に高所恐怖症とかではないけど(むしろ平気)この高さで、命綱も何もなしってのは、スリルありすぎっつーか、なんつーか……それどころの話じゃないな。


「あの、大丈夫ですか?」
「え? あ。うん、いや、大丈夫だ」


俺がこの高さにビビって呆然としていると思ったのか、奴が声をかけてきた。
まぁ、確かに、ある意味呆然としてましたけど。

で。話ずれてるけど、何でどこかに立ってるような気がするんだろう。
試しに、片足を上げて何かを踏み付けるような動きをしてみた。やっぱり固い。

その俺の一連の行動を見ていたらしく「何してるんですか」と、横から呆れたような奴の声が聞こえてきた。素直に「空の上にいるのに、何で地面に立ってるような気がするのかなーと思ってさ」と答えると「それはここがすでに天界の領域内だからですよ」とあっさり言われた。
どういう反応をしたらいいのか分からなくて「いや、意味分かんねーし」と軽くツッコんどいた。


「つまり、地上と同じように、こちらにも全てが物質化している世界があるわけなんです。意味分かります?」


それに「分かりません」と答えると、あからさまに顔を引きつらせた。
なんかこの人、だんだん怒ってる口調になってきてるような……最後、無理矢理言い聞かせてるし。
何となくイライラしているのが分かる。
口調もそうだが、ピリピリとした雰囲気が伝わってくるのだ。

どことなく“修”みたいな感じがする。
あの笑顔をあまり崩すことのない修は、キレる時も“微笑みながら”だ。
ある意味、普通にキレられるよりも怖い。


「それは後で説明するとして、行きますよ。ついてきてください」


「ちょっと待った」と声をかけようとしたが、奴は脇目も振らずに空中を歩いていく。
ついてこいって言ってたけど、まさか一歩踏み出した瞬間に、地面へ真っ逆さま……なんてことないよな?
軽い不安を覚えながら歩いてみると、普通の地面を歩いているような気がした。
やっぱり変な力が働いているらしい。

 


 

「吾妻さん。吾妻さん?」
「あ、吾妻君は欠席らしいです」


聖の変わりに立ち上がって答えた。
今はもう学校が始まっていて、先日任期を終えた古株の教師に変わり、この高校に勤務する事になった新米教師が出欠の確認をとっているところだ。
律儀に名前を呼んで、出欠の確認をする辺りがまさに新米らしい。

それにしても、あいつが学校を休むなんて珍しいな。……ずる休みは別として。
いつもなら「今日学校休むから、後よろしく」などと軽い調子で連絡を入れるはずなのに、今日はそれがない。よっぽど具合が悪いと言う事か。

 

しばらくして昼休みになり、購買へ行こうとしていたときに薫と会った。
聖は一緒じゃないの?と聞かれて事情を説明すると、薫は微妙な表情を浮かべて
「はー。珍しい事もあるもんだね。よっぽど具合でも悪いのかな?」と言ってみせた。

同じ意見に辿り着くのは、あいつとは二人とも長い付き合いだし、よく知ってるせいか。
その考えに思わず苦笑した。


「帰りに様子でも見てく?」
「そうだな。ずる休み以外で学校休むなんて珍しいし、からかってやるか」
「あはは! それいいかも」


二人とも声をあげて笑った。
話の内容を聞いていたらしく、横では少し驚いたような顔をする女生徒が通り過ぎていった。
何でこんな話を聞いて驚くかと言うと、理由はだいたい想像が付く。

どうも俺は普段の素振りと、親しい人に対したときの素振りがかなり違うらしい。
前にクラスで仲が良くなった奴に、真顔で「お前ギャップありすぎ」と言われた事がある。
「何が?」と聞き返すと、さっき俺が言った通り、素振りが違うそうだ。

違うと言われれば違う気がするが、別にそれくらい普通じゃないか?
確かに自分で意識して使い分けてるときもあるけれど。

色々思いだしていたら、薫が俺の名前を呼んだので「何?」といった感じでそっちを見ると
「ちょっと修、大丈夫?何回呼んでも気付かないし」怒ったような口調で言われた。
なんとなく謝るのもおかしいかなと思い、しょうがないのでハハハと軽く笑っておいた。


「それじゃ、放課後にね!」

言い残し、薫は教室の中に戻っていく。
その後ろ姿を見て俺はふと、自分が購買に行こうとしていたことを思い出して、また歩き出した。

 

この時はまだ、異変が起きはじめているなんて、少しも想像もしなかった。

それは俺だけじゃない。誰もが───

 


 

はぁー……と、その光景を見て、少し間抜けな声を出したのは俺だった。
どちらかと言えば感嘆(って言うんだっけ?)の声をあげた、と言ったほうが合ってるんだが。

あの後、奴は何もない所でいきなり止まり、目を閉じて何かぶつぶつと独り言を喋り始めた。
声をかけようとした途端独り言を言うのをやめ、目を開く。

そしたらいきなり空が割れ始めた。いや、扉が開いた。
何故分かったのかって、奴が「ここが天界と呼ばれている場所です」と横で説明しているのを聞いて「じゃ、今のは扉なんだな」って言ったら「そうです」って返されたからだ。
奴はその後さらに続けた。


「ここが現在、あなた達の世界で言う『首都』になっています。それと……」


ふと何かを思い出したか、気がついたかのように顔を上げ、こちらを見て言った。


「これから『長』の所に向かう事になりますが、その前に少し待っててもらえますか? 急用を思いだしたので」
「待ってる間、俺はなにしてればいいんだよ」
「その辺りを探索でも。充分、暇つぶしにはなると思いますよ」


ニヤリと意味ありげな微笑を浮かべながら言うその顔に、何故か今までとは違った印象を受けた。
何となく、底知れない雰囲気を感じ取ったと言うか、何と言うか。
そんなことを考えている内に、アイツは何処かへ行ってしまった。

で。

ここに一人で残されてても仕方がないので。

ま、アイツのいうとおり、探索でもしたいと思います。

とりあえず何メートルか先にある噴水の所に行ってみる。
別に普通のと変わりないじゃん。
とか思ってたけど、よく見たら中は……ガラス張りなのか? 空が見えていた。
その中を半透明の魚(だと思う)が泳いでいる。いや、ただこれじゃ、見てても飽きるし。

そう思ってたらいきなり水が激しく吹き出し始めて、魚(多分)がそれに巻き込まれた。
さらに吹き出された魚(決定)は宙に舞ったかと思うと、いきなり鳥に変わって何処かへ飛んでいった。

魚って言うか…鳥?


「……なんだありゃ」


思ったことを口にしたら、いきなり後ろから声がした。


「あれ、浮遊魚(ふゆうぎょ)って言うんだよ。見たまんまでしょ?」


振りかえると、見た目で俺と同じか……少し下くらいの歳の女の子がいた。
片目を隠すように帽子を深く被っていて、一瞬女か男か迷ったけど、声からして多分そうだ。


「どーも、初めまして。あたしは西ざ……じゃなかった『ユマ・ディクライネスク・ハウント』……って、あ〜……。あー、もう! メンドイから『ユマ』で! この前から“魔族”やってます」


片手を差し出して、握手を求めるようにしてきたので俺も手を出すと、力強く握って大きく振った。
悩んでるように話しだしたかと思ったら、今度はやたらと笑顔だ。


……待てよ。

今『まぞく』とか何とか言わなかったか?


「言いましたよ。だって本当だもん」


いつの間にか声に出していたらしく、その答えが返ってきた。


「あ、いや『本当』って……へ?」


自分で聞いてて間抜けな声だなと思った(本日二度目)


「きみも“覚醒した”とか何とかでここに来たんでしょ?」
「は? 覚醒?」
「え、何、説明されてないの?」
「あー、ちょっと待った。混乱してきたぞー……俺は、変な奴がいきなり目の前に現れて、ソイツが『天界から迎えに来ました』とか言って……脅迫紛いのこと言われてココ来たんだ。よく分かんねぇんだよな」
「……なるほど」


納得したのか、何かを考えているかのように少し上目遣いのまま答えていた。
そのまま「うん、じゃ、あたしの分かる範囲だったら教えてあげる」と言い出した。


「まず、人には天使か悪魔の生まれ変わりの人がいることがあるんだって。で、その人が天使か悪魔にしか使えない力を使ったら迎えが来るの。きみも何か力を使ったから、多分それで連れて来られたのかと」
「はぁ」
「大丈夫? ここまで分かってる? 覚醒ってのはその事だよ。人が天使か悪魔として力を使う事」
「……はぁ」
「……あんま意味分かってないでしょ」


呆れた目で見られ、何だかせめられてる気がした。
理屈は分かった。
むしろアイツ(まだ名前思い出せてない)の説明よりは分かりやすかった。
けど……


「いや、分かったよ。分かったけど、もう、現実離れしてて受け入れられないっつーか……なんつーか?」
「ハハハ」


……何となく冷めた笑いをされたが気にしない事にする。


「ま、仕方ないよね。こんな話、最初は誰でも信じらんないと思うよ。あたしだって夢だと思ったもん」
「夢?」
「そう。ちょーど眠くてウトウトしてた時に迎えが来たもんだから。それと……」
「おーい!!」


後ろから声がして振り返ると、誰かがこっちに向かって走ってくる。
黒いマントを羽織っていて、短髪。男のようだ。
それを見て今まで話をしていた子(あれ、ユマ……だよな?確か…)が、知り合いなのか、親しげに声をかける。


「何? あんた今日はもういいのー?」
「まーなー。今日は出来が良かったからって切り上げてもらったー! ところでなんだ?……逆ナン?」


俺を見ながら、こう言ってきた。その台詞を聞いて俺は冷めた笑いをし、
ユマの方は顔を赤くしてツッコミを入れた。
(誰が! あんたじゃあるまいし! それに今時逆ナンかよ!)
逆に突っ込まれたほうはメソメソと泣き真似をしながらボケる。
(うわ、ひでー! 今、オレの心に釘が刺さったよ!)


「とまぁ、この人(聖)が困ってるから、ふざけんのはこれくらいにして……」
「あんた、いっつもふざけてんじゃん」と、ユマがまたもツッコミを入れる。
それに対し、ツッコまれた方は「毎度、手痛いツッコミをどうもありがとう」としか言わなかった。


「初めまして。オレは……どうしよう? これ本名言うべき?」


ユマの方に振り返りながら聞いている。ユマは「私は魔族名言った」とだけ答えた。


「それじゃオレも。オレは『ディック・クラネル・ファウズ』。ただ今『ガーディアン・カルテット』の修業中。メンドイからMr.Dでいいデス」
「み、ミスターディー…? どんなネーミングセンスしてんの? あんた」
「シャレですよ、シャレ。んーと、『ディック』でよろしく」

ユマのツッコミを今度は受け流し、ユマの時と同じく手を差し出してきたので、俺も手を差し出して握り返した。
そこへ「そうそう」とユマが入ってきたので、そっちを見る。


「さっき言いかけたけど、あたしの場合“迎え”が来たときに、なんでかな〜……こいつまで迎えに来た人と一緒だったんだよねー」


ユマは説明しながら「うりゃうりゃ」と何故かディックの(だよな? ……俺、人の名前覚えるの得意じゃねぇんだよ……)頬をつつく。
……つつくって言うか、なんか指ぐりぐりいってめりこんでますけど……。
それをディックは「ヤメテクダサイ」と糸目顔で、どこか棒読みで言いながら涙を流していた(嘘泣き)

「だってさーあれは同じ日に迎えが来たんだから仕方ないだろー」と頬をさすりながらディック。
「それはそうかもしんないけど、なんで一緒になって人の部屋に入ってくるかなぁ〜?」とユマ。
「あのさ……二人ってどういう関係?」と、そこで俺。
一瞬二人で顔を見合わせて出てきたのは…。


「ただの幼馴染み」
「カレカノの関係です」


ここまで見てれば、言わなくても大体予想つくだろうけど「ただの幼馴染み」と答えたのがユマ。
「カレカノの関係です」と答えたのがディックだ(しかも真顔で)
……言った瞬間、ユマが問答無用でディックの頭を殴りました。
あーあ。「シャレだと言うにー!!」とか言いながらすげー痛がってるけど……。


「もう一つ質問。『ユマ』とか『ディック』って本名? ってかアンタら外人? その割に日本語喋ってるけど……」


その質問にまたも顔を見合わせる二人。最初に答えたのはユマだった。


「『ユマ』とか『ディック』って言うのは本名でもあり、本名じゃない……ってのが正解かな?」
「どういうこと?」
「えっとね……覚醒した後に“前世での名前”が与えられるんだって。つまり天使や悪魔だった時のね。何でもそうしなきゃ、力がコントロール出来るようにならないとかで。だからこっちでは世界では前世での名前で呼ぶのが一般的。それと、日本人です」
「外人も中にはいるよ。けどちゃんと言葉は通じる。ここで言語はほとんど関係ないんだってさ」


ディックが頭を抑えながら近付いてきた。そしてそのまま
「日本にいるときは、オレは『仁道井 圭吾』って名前。そっちは『西崎 由里花』って名前ね」と指を差しながら。


「あと、最後に一つ。そのー……なんだ。アンタらここに居て大丈夫なのか? 天使とさ、悪魔って……」
「『仲悪いもんじゃないの?』って?」


ズバリと言い当てられた。「やっぱりね」といった感じでユマは溜め息をつく。


「あたしもそういうイメージあったんだ。天使が良い人で悪魔が悪い人みたいなね。だから自分が悪魔の生まれ変わりだって聞いた時は、嫌な気分だった。けどね、実際は違うんだって。むしろお互いに何かあったら助け合うような関係、友好関係なんだってさ」


そこまで言ってユマは笑ってみせた。

 

 

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アトガキ。

あれー? なんか途中から急にギャグっぽくなってるぞー。
…ま、いいか(いいのか
そして半端な所で終わっちゃったー…。ゴメナサイ。(舌足らず)サブタイトルはユマの台詞から。

ユマとディックが出せた!&二人の会話を考えるのが楽しかった!!本業ギャグ書きですから!!(笑
なんか登場人物、名前どんどん凄い事になってくな(汗 テキトーに考えてますから…(おい

ところで私の考えたキャラ名は『ディ』とか『ク』とか『ト』とか『ス』とか、あと『ラ行』が入る事多い。
偏ってますなー…(?)『ケイル・カーティスト』とか、ほら…。(「ほら」って言われても

……そう言えばオリキャラで一番最初に思いついたのがケイルだったなー…。と何故か今思い出しました。
あ、『ケイ』ってつく名前も多い!!(汗
今あるので、ケイル、圭吾、景史…。うーん、バリエーションないね…(汗