第2話「準守護天使」
はぁ……なんだったんだ、さっきの……気になって仕方ないんですが……。
意味もなく敬語口調で独り言を呟く。
ちなみに二人はこそこそと俺に聞こえないように話をしながら、後ろをついてくる。
……バレバレだっての。
なんだか見ていてむず痒くなってきたので、二人の方に向き直って思わず声を張り上げた。
「……なぁ、言いたい事あるなら言えよ」
すると二人は顔を見合わせ、何か言いかけたが、すぐに口ごもった。
そう言うのを見ていると、なんだかイラつく。
「何だよ、何もねぇの?」
不機嫌そうに(聞こえたと思う)言うと、薫の方が口を開いた。
「あのさ……私の目の錯覚じゃないとするとね」
そう切り出し、遠慮がちに俺を指差した。いや、正確には俺の後ろを。
気になって後ろを見るが、別に何もない。が、次に薫はこう言った。
「後ろに、なんかボヤーッと白い物が……」
「はぁぁ?」
俺はもう一度、自分の後ろを見た。やっぱり何もない。
そして「あ、いなくなった」と、俺が後ろを見た時に、薫はタイミング良く(?)そう一言。
もし、その“白い物”が“霊”だとすれば、俺はとっくに気がついているはずだ。
「からかってんのか?」
「ち、違うよ!本当に見えたんだもん!」
俺がキレかけてるのが分かると、薫が慌てて首を横にふり、肯定した。
俺は今と真逆に向きを変え、また黙って歩き出した。
……白い物ねぇ。
今日の運の無さといい、あの変な出来事といい……俺、気付かないうちに憑かれた?確かに、なんだか肩が重い気がする。まさかな。冗談じゃない。
と言うか「俺、ゆーれーに取り憑かれてるみたいです!」なんて言った所で説得力ないだろう。
自分で気がつかないうちに取り憑かれ……ありえん。俺の場合気付くよな、やっぱ。
……うーん、何やってるんだろ、俺。考えがどんどん変に発展していってるぞ。
これ以上考えたところで何にも何ないし。いいや、もうやめよう。そう思っていたところで、薫が話かけてきた。
だから「何、さっきの話か?あー、俺も悪かったよ……」と、微妙な態度で謝った。
だが「そうじゃなくて、前……」そう言った。「前?」と、言ってその言葉通りに前を見た瞬間。
……はい、本日のお約束。たまたま路上駐車していた車のミラーにぶつかった。そりゃあ、思いっきり。
目撃してた人が少なかったのが、唯一の救いかもしれない。
……今日は本当、最悪だ。
同時刻。
聖達の住む所からは程遠い世界にいる者達の所。
一人の青年が一人の女性としきりに会話をしていた。
「ありえませんよ、普通。目覚めが来ていない者が神力を使った? 何かの間違いでしょう」
「でも、本当に起こった事なのです。“ノーバーズ”が知らせてきたわ」
そう言って女性は、自分の肩にとまっている鳥に目をやった。
その鳥は黒く、カラスに似た風貌をしている。
青年は、少し訝し気にその鳥を見た。
その鳥は小さく鳴いただけで、黒く丸い目をこちらに向けてくる。
「まぁ、絶対に信じないと言うわけではありませんが。こう、実感が湧かないと言うか」
「そう。それなら丁度いいですね」
「どう言う事ですか?」と青年が聞く前に、女性は青年の目の前に手をかざし、ゆっくりと左から右に移動させた。
スーッと掌が移動すると、後には金色に輝く文字が空中に残る。それは、この世界での契約書。
青年はそれを見て「……冗談でしょう?」の一言。
「いいえ。これは“長”からの、れっきとした命令です」
「何故ですか? 私よりもっと他に適役がいるはず……」
「上より、これはあなたでなければ勤まらない問題だと判断されました。引き受けてくれますね?」
女性は「絶対断らせない」と言う勢いで迫ってきた。
青年はと言うと、ものの見事にその作戦にはまってしまったわけで。
「それでは、正式に“契約”を」その言葉に溜め息をつきながら、応答する。この世界では例え相手が全てを統べる者だったとしても、その人物から命令をうけた本人が「了承した」という証拠を残さないと、その命令は無効になってしまう。
体の前で、神力を使って特殊な印を描く。それは先ほどの契約書と同じように金色の文字だ。
書き終わると掌をかざして、契約書に貼る様にする。
実際、契約書も印も空中に浮かんでいるので「貼る」と言う表現はあっているのか分からないが。
金色の文字と文字とが重なり、一瞬だけ辺り全てを照らしだす。その後、女性は落ちつき払った様子で「それでは、頼みましたよ。『ケイル・カーティスト』」と言った。その様子に青年は、苦笑しながら言い返す。
「フルネームで呼ぶなんて、わざとらしいですよ。<四重の守護者(ガーディアン・カルテット)>」
青年の発言は少し嫌味っぽく聞こえたが、いかんせん、彼女の方が一枚上手だった。
「そうですか? どうやら仕事での癖がついてしまったようですね」と、彼女は柔和な笑顔を崩さなかった。
「それでは、迎えに行ってあげてくださいね」
「言われなくても、分かっていますよ」
青年は言い終わるか終らないかのうちに彼女の方に背を見せて、この世界の門へと向かう。
横には白いローブを被った門番が二人。初めて見ると、こんな軟弱そうな者達では門番は勤まらないと誰もが思うだろう。
だが、この世界では体格や力量などあまり関係ない。
ある程度の神力さえあれば、誰にだって門番は勤まる。
青年がその門へと近付いて行くと「用件は?」と一人が聞き出す。
まだ扉の内側にいるのに、この質問はおかしいと思うが、それはここが普通の世界ではないからだ。
「命を受けた。これから地上へと向かう」
それだけ言うと、誰も触れていない門が、意志があるかの様にスーッと開く。
そこに広がるのは、外の様子が見える半透明の通路。その通路を通して見えているのは、空。地上の人間達の表現を借りて言うならば、ここはまさに“空に浮かぶ”都市だった。
人間達の間の物語では、よくこう呼ばれている。『天界』と。
そしてここにいる事のできるのは『神族』だ。
だからこの世界は『天界』、ここにいるのは全て『神族』である。
(いるのが必ず神族ばかりと言うわけではないが)今、地上───人間達の住むところに行こうとしている青年は、神族『ケイル・カーティスト』。
これより、仲間となりうる神族を護る『準守護天使』として、ある人間を迎えに行く。
「じゃーなー」と修が俺の数メートル先で手を振っている。横には薫もいた。
俺はそれに応えて手を振り、二人が前を向いて歩き出したのを見てから、家の中に入った。玄関から上がってくるなリ、階段を登って自分の部屋に直行する。
いつもならここで母さんに「誰?聖なの?」と聞かれるが、今日はそれがない。出掛けているのか。ベットに鞄を放り投げ、俺も身体を預けるように横になる。
今日は色々ありすぎて疲れた。
まぁ、今日は厄日だったみたいだが、何よりも、さっきの出来事。
───時間が止まった。
なんて言うか……普通に考えてありえない。
確かに現実に起こった。けれど目の当たりにした俺も、あれは夢としてしか信じられない。
でも、そのおかげで命拾いしたわけだが。とりあえずさっさと着替えを済ませ、一階に行って冷蔵庫の中から飲み物を探す。
……あ。何もねーじゃん。
「仕方ないなぁ」とぼやきながら、自分の部屋に戻り、財布を取ってくる。
潰れたかかとの部分を直しながら靴を履き、外に出た。
アトガキ。天地第2話です…ケイル登場です…なんか妙にガラリと変わったよぉー…(汗
『ガーディアン・カルテット』っていうのは、リメイク前は『四重のガーディアン』でした。
言い方変えただけじゃん。
今回こんなところで終わっちゃいましたねぇ…3話はどうなることやら…(汗
んで、サブタイトルがケイルの事…