第13話「軌道」

 

目の前にあるのは青みがかった球体。
机と椅子といくつかの物。比較的物資の少ない部屋。
“変わり者” と呼ばれる神族、シルマ・ラゼルアは自分の作り出した球体を見ていた。

監視を依頼されたものの、本当に見ているだけだ。
報告する必要はない。
矛盾した考えを持って彼は監視対象を見ていた。

大体、他人の生活の様子を覗く監視など、悪趣味だと思う。
けれど自分の特殊能力が運のツキ。
力で作り出した球体で対象を見つけだし、同行を探る。それが彼の能力。

いや、これは“改転生族”と呼ばれる者なら、誰でも持っている能力だ。
けれど力として具体的に引き出すのが難しく、確認されている改転生族の中でも能力が一番強いのがシルマだった。

冷たい印象を与える青の双眸。
その先にあるのは球体の中に写る人影。
一人は監視対象。もう一人は彼がよく知っている人物で───ある意味でお人好しな奴だ。

今見ていることにも気が付いているんだろうな。
そんなことを思いながらも様子を見続ける。
ただ、今は監視対象の少年よりも気になるものがある。

先ほどの四重の守護者。あれは一体何の為に来た?

名は確か『アルク・フォレストリー』と言っていた。
実際には会ったことがないものの、彼のことはよく知っている。
……いや待て。過去に会ったことがある。
それは今よりも昔の話で、地上人からしたら寿命の長い神族にとって、遠い遠い昔の出来事。

いいや。昔、というよりも……。

そこで一旦思考を停止した。
何故あれは子供の形態を取っているのだ。と。
確か四重の守護者は全員同い年くらいのはずだ。

まあ、神族・魔族はある程度までなら見た目も自在に操れる。
大方自らあの姿になっているのだろうが。
けれど天界とて地上と同じで、子供だと不都合が出たりする。とても特とは思えないが。

目は監視対象へと向いているものの、思考は別の方へと飛んでいる。
ふと思い立って、別の方を見てみることにした。
───聖青の間。四重の守護者の拠点と言ってもいいその部屋だ。

目に青の光が宿り、球体の中では渦が巻く。
そして朧げに影が見え始めた頃、キィンと高い音が耳に入った。
続けてパキ、と音を立てて、目の前の球体にひびが入る。

強い抵抗を感じ、そこで一旦力を解く。
途端、目の前の球体は弾けるように消え、代わりに頭に痛みが走る。


「───っ」


声に出さずに痛みに耐え、頭をおさえた。

どうやら探ることが出来ないように結界を入っているようだった。
まあ、確かに天界の重要部ではある。結界くらい張っていてもおかしくない。

ただ、普通の結界ならシルマの能力には通用しない。
これは明らかに―――自分への対策だ。
それも、嫌な想いを思い出させるような……。


「何を、考えてる……?」


誰に言うまでもなく、自分しかいない部屋の中で呟いた。
頭をおさえ、椅子の背に身体を預けて天井を仰ぐ。
何か、嫌なことを……それで重要なことを思い出しそうな……そんな予感がする。

嫌なことなら、とうの昔に思い出しているはずなのに。
だからこそ、こうして人目に付かないところにいるのだ。
ただ自分の自己満足なのかもしれないが───罪滅ぼしとして。

裏切り行為。それが自分の犯した罪で、何よりも傷付いているのは……。


「……」


喉の奥から、声が出かかる。
恐らく声、と言うよりも、叫び。
無性に叫びたい衝動に駆られた。けれどそれをおさえて仰け反った身体を元に戻す。
こんな時、理由もなく「自分は病んでいるのかもしれない」と、どこかでそう思う。

思い出しそうで思い出せない。
思い出したくはないが───思い出さなければいけないことのはずだ。

何だ───あの<四重の守護者>に関係あることなのか?

痛む頭をおさえながら、再び思考を巡らせた途端、扉の開く音がした。

 


 

「……今、見ようとしてたわね」


そう言うルーディの声音は低い。
警戒しているのだろう。


「まー、これが破れるわけないって。どうせ見ようとして失敗したんだろ」


たった今聖青の間へと来たアルクがふん、と鼻を鳴らした。
聖達のところへ来た時の態度とは打って変わり、今は偉そうに構えている。
そうそう、と、思い出したように話題が出た。


「やっぱりまだ、起きる気すらなかったね」


そのままズカズカと大股で歩いて、木の根元に座る。


「あれはまるっきりバカだった」


断言してから、はぁーあ。とわざとらしい溜め息を吐き、天井を見て、手を仰ぐように横に振る。
駄目だ、駄目だとでも言いたげに振られた手は、いきなり腕の力が抜けて足の上へ落ちた。
横ではヴァースが「五月蝿い、静かにしろ」と言うが、それは聞こえているのか。


「それなら、こっちの方が早く目覚めるのかしら?」
「当たり前だろ? いや。そうじゃなきゃ困るって」
「……もう少し声を抑えて話せ。五月蝿い」
「何よ、ひとつもこっちの仕事してない貴方が言える台詞じゃないでしょ?」


ルーディが怒ったように言うと、彼もムッとしたのか。
反撃と言わんばかりに喋り出した。


「お前達二人が俺にこの仕事を押し付けたんだろう。それとも代わりにやってみるか?」
「やだ。ぜってーやりたくねー」
「お断り。前にも嫌だって言ったでしょ?」


この我侭二人組め。
ヴァースが少しでも冗談を言えるような頭を持っていたなら、そう言っていたかもしれない。
彼は二人の屁理屈とも、単なる我侭とも呼べる言い分に何も言い返さなかった。

ヴァースが頑固一徹。真面目だったのが幸いだったのか。
いつの間にかヴァースが四重の守護者としての任を一人で行い、
残り二人はもう一つの目的を進めるというスタイルが出来上がってしまっていた。
どれにしても、本人らはそれで上手くやっているから良いらしいが。


「とりあえず……後しばらくは、様子見るだけか?」
「そうね。あの方が自分から動かない限り……私達も動けそうにないわ」


ルーディが空を仰いだ。

 


 

「何だ? どうして俺のところに来た」


シルマが突然の来客に声をかける。
するとその客はにっ、と笑って腰に手を当てふんぞり返る。


「いやー、気付いてるかな、と思って」
「何のことだ……?」


そこで今ふと思い出したことを聞いてみた。


「協力者<パートナー>はどうした?」
「あー、クレイスね。今頃“審判長”のところ」
「……何かしたのか」
「違う、違う。魂置いてくるっていうから、あたしが途中で抜けてきただけ」


そう言う彼女はいかにも面倒くさそうな表情をしてみせた。


「あの人ちょっと苦手なんだよ、考えてること分からなくてさぁ」
「……俺からしたら、お前も考えてることが分からないんだがな……」
「それは一緒。あたしもあんたがなに考えてるのか分からない」


変わり者のシルマ・ラゼルア。
彼本人の目の前だと言うのに、さらりと「考えていることが分からない」と言ってみせる彼女はある意味で強者だ。
そしてそれにフォローを入れるかのように言う。


「面白いからいいんだけどね」
「どこが面白いんだ……」


逆にシルマが頭を抱え出しそうな台詞を言った。
これではフォローになっているのかどうか分からない。
「あはは」と本当に愉快そうに笑った後、彼女は言い出した。


「さて。それで、本題なんだけど……気付いてた?」
「だから、何のことだ?」
「あー。気付いてなかったかー……地上、見てみ?」


何も無いはずの机の上を指差しながら彼女は言う。
ようするに、能力を使ってみろというのだろう。
彼女の言うとおりに、力を使って球体を出す。


「この前、聖って子がここに来たでしょ?」
「何故知っている」


冷静に言い放つシルマの目の前で、彼女はチッチッチと舌打ちをした後で笑いながら言う。


「あたしらの情報網を甘く見ちゃいけません。天界でも魔界でも騒いでる話題を嗅ぎ付けられないはずがない」
「……知っているのは上層部だけのはずだ」
「うーん。だったら流したのは“執行長”あたりかな。話を聞いたんだと思うよ。ほら、上層部同士、仲がいいんじゃない?」
「そんな情報をすぐ流すほど無責任なのか、お前達の上司は」
「失敬な。情報が早いと言ってよ。その聖って子が来る前の軌道、追える?」
「分からないな」


そう昔のものではないとは言え、特定の人間の軌道を追うことは難しい。
こう言う場合は特定の神力を追えば良い。
だが、まだ“覚醒”前。
力もそう大きくはなく、力の残滓が残っている可能性は低かった。


「それじゃあ、ちょっと“波長合わせ”させてもらうよ」


彼女はそう言うと、いきなりシルマの両目を片手で被う。
被うと言うよりは、叩いたと言った方が合っているか。
ビタン! と、音がした。それに対してシルマは一言。


「……痛い」
「ごめん、力入れ過ぎた」


謝ってはいるが、その顔に反省の色は見えない。
集中しているせいなのかもしれない。
彼女の茶色だった眼は、今は赤く染まっている。


「多分、これで“魂跡(こんせき)”が見えるはずなんだけど」
「俺がそれを見てどうする」


そう聞くシルマの眼は、彼女のように青から赤へと変わっている。


「とにかくさ。あった、これこれ。見える?」
「煙のようだな」
「これがあの子の魂跡。というか、軌道だね。追ってみてよ」


言われるがままに、目線は煙を追う。
目の前にあるガラスのような球体から見えなくなると、球体の中で景色が動く。


「ストップ。ここに雲みたいなのがあるの見える?」


彼女は一点を指差して言った。
それは横断歩道で、行き交う人々がまばらに見える。
そこに、青い雲らしきものが確かに見えた。


「……残留思念、か?」
「それがちょっと違う。普通の思念にしては強いんだよ。これだけ強いと普通は“不成仏霊”でもおかしくないね。だけど殺気が無いし、何よりも───思念そのものの働きをしてない」
「……どういうことだ?」
「もー! 結構頭良いと思ってたけど、思ったより物知らないんだね」


少し怒りぎみに彼女が言うと、シルマは呆れたように返す。


「神族が執行者の知識を持ってる方が珍しいと思うが」
「ま、覚えて損は無いし、よく聞いといてよ? つまり、これは思念に似てるけど思念じゃないって事。力、なんだよ」
「力……」
「普通はさ。人の世界では、あんたたちは力を出しても、力を出した名残───拳銃でいう硝煙とか、タバコでいう煙みたいなもんか───残留波はすぐに消えるっしょ? ところがこれは消えてないんだよ」


彼女は煙の見える場所を小突いた。
小突かれた球体がこんこん、と音を立てながらその光景を写し続ける。


「力があまりにも強いか、もしくは魂そのものの跡」
「魂そのもの……」
「魂ってのは、その時の感情や心境次第で、たまに跡を残すの。これもそれ。だけどあたしの“眼”で見るからには、あの子の魂の跡であって、そうじゃない」
「……色々矛盾しているが」
「うーん、どう説明したらいいかなあ。同一人物だけど、同一人物じゃない?」
「意味が分からない」
「なんだろ。別次元の自分? 違うか。簡単に言っちゃえば、魂が二つに“分かれて”んのね」


こんな感じ、と言いながら、彼女は組み合わせた両手をスッと両極へ離す。
大体言いたいことは理解したが、そんな説明を見ても実感が湧かない。
そして納得がいかない。


「魂が分かれる、か。普通なら衰弱しきって消滅するだろう」


そうだ。普通、魂と言うものはそれ一つで形をなしている。
それが分かれてしまったとなると、原型を留められずに消滅するか。
もう片半分を探し歩く、出来損ないの“霊”となるかのどちらかだ。


「普通はね。だけど時々あるのよ、こんなこと。それにこれは厳密には、分かれたとは言えない」
「……何か知ってるような言い種だな」
「知ってるからね」


あっさりと彼女は言う。


「……だったら最初から結論を言え」


不機嫌そうに。違う。静かに怒りながらシルマは言った。
それに彼女は赤い眼を愉快そうに細めながら「あははー! ごめん、怒んない、怒んない」 と反省もしないまま彼をなだめる。


「ま、最初から結論言っても信じられないだろうからね。少し説明させてもらったわけよ」


彼女はそのままスッと両眼を閉じ、再び開いた時には元の色に戻っていた。
それに呼応するようにシルマの眼も徐々に赤から冷たい青へ戻る。


「どういうことだ?」
「まー、ね。監視なんかしてる時点で訊いてると思うけど。『ライズ』だよ」


その単語にピクリと肩が動く。


「どういうことだ?」
「察し悪いなー。つまり、あんたらの英雄様こと『ライズ』が出てきてんの」
「そんな馬鹿な話……」
「馬鹿な話だと思うでしょ? ところが、本当」


さも大したことがなさそうに彼女は言う。
けれど本当だとすれば実際大した話……むしろ大事だ。


「何故分かる?」
「『あの時』に、ね。“あいつ”と沈んでくあの英雄様の魂の色が見えた。気配もしっかり覚えてる」
「よく分かるな……」
「こんなんでも『死神』ですからねー。魂に関しては詳しいですよ、私は」
「その喋り方を止めろ。不自然すぎて気味が悪い」
「あら嫌だ、失礼しちゃいますこと」
「止めろと言っているのに……」


完全にからかわれているシルマをよそに彼女は腹を押さえて笑う。
「あっはっはっは! やっぱ面白いねー、あんた」 と言うが、全く褒められている気がしない。
驚愕の事態を宣告したと言うのに重々しさを感じさせない。
そんな彼女の行動は気遣いから来ているものだと言うことをシルマは感じ取った。
ありがた迷惑と言うか、なんと言うか。


「それで、忠告しにきただけか?」
「そんなところ。一応、協力関係にあるからね」
「……それだけか」


全く……とポツリと呟くと、彼女は眉根を寄せた。


「酷いなー。具合でも悪くしてるかと思って見舞いついでに来たのに」
「見舞い? いらない。具合も悪くはしていない」
「本当にそう?」


スッと両目を細めて彼女は言う。


「痛むんじゃないの?」


少し眼を見開いた。
彼女の言葉は、的確に的をついた言葉だったからだ。
けれどシルマは肯定しない。


「何がだ?」
「あらま。とぼけるなんて珍しー。『何がだ』じゃないでしょ。その額の紋様」


彼女は彼の静止の声を無視して、無理矢理シルマの前髪をかきあげる。
そこには黒い独特の紋様が確かにあった。


「あー。すごい浮かび上がってる。いつの間にか目にまでかかってるし」


隠されていた右目の方に、傷のように浮かぶそれは不気味とも言えた。
目にまで及ぶ刃物で傷つけられたようなそれ。
そして額に浮かぶ文字のような黒。


「未だに縛られてるんだね……ま、少し休みなよ」


少し意味ありげに呟いてから、彼女はパッと手を離す。
シルマは放された前髪を撫で付けながら、少し力を込めて手を握りしめた。

“縛られてる”とは……なんだ。

考えていただけだと思ったのに、いつの間にか口に出していたのか。
彼女が目を細めながら答えた。


「分かるでしょ? あいつにだよ」


あいつ、と言う言葉に力を込めながら。


「本当に休みなって。その紋様相手に負けてるようじゃ、また同じことするだけだよ。なんのためにこんなところに一人でいるのさ」
「……罪、滅ぼしかもな……」
「罪滅ぼしぃ?」


彼女は眉間にしわを作りながら、少し怒ったような顔をした。
そして腕組みをしながら言う。


「あんたがこんなところに一人でいるのは、いつまた自我がなくなるか分からないからだよ。自分でも知らないうちに、周りに被害出さないようにしてんでしょ? 違う?」
「被害……」
「覚えてないわけ? 違う、もしかして“記憶消され始めてる”?」


先ほどから何かおかしいと思った。
表情を一変させ、慌てながら再びシルマの額を見る。
その紋様が少しだが、発光していた。


「げ。これって『記憶操作術』じゃないの? しかもけっこう強力だし、どこでこんなの受けたのさ?」
「記憶、操作……? まさか」
「『まさか』? 何? あ、いいや、言わなくて。そのまま」


そう言うと、彼女はその両目を再び赤に染めあげる。


「全く! ここじゃいちいち『霊波』上げなきゃ力使えないってのが面倒だね」


そうぼやきながら、片手をその額に添える。

彼女の脳内で、先ほどシルマが『聖青の間』 を見ようとした時の光景が朧げに見えた。
目の前で球体が割れて頭に痛みが走る。
『何を、考えてる……?』そう呟いたのが見えた。

そこで彼女は額から手を放した。


「あっちゃー……結界の追加効力ってところか。んー。ねえ、まだ聞こえてる? あたしの言ってることわかる?」


そう言ってシルマの目の前でピースをしてみせた。
そして左右に振りながらこう言った。


「これ見えるー? この指何本?」
「人が、苦しんでる時に、馬鹿か……お前は……」
「はい、ツッコミ入れられるってことは大丈夫だね」


パンパンと手を叩いて、指を動かしながら彼女は言った。
そのままシルマの額に手を当てて、ゆっくりと声を大きくして言う。


「一応、抵抗力はまだあるから、あたしの霊力加えて、力の底上げするよ? いいね?」


それに彼は「うん」とも返事をしなかったが、彼女は構わずに手に力を込めた。
身体中から霊力を呼び起こし、シルマの頭に直接叩き込む。
そうすれば自然とシルマの身体の中で霊力が神力に変換され、毒物のように身体に作用していた『記憶操作術』ー――その名の通り、記憶を操作する術だ―――を排除する。

霊力はこう言う時に応用が利くから便利だ。と彼女は思う。
が、天界では神力が、魔界では魔力が色濃く強すぎるのか。
自分の中にある霊力が鎮圧されて一時的に霊派―――霊力の力の度合い―――が下がる。
霊力が鎮圧されている影響か、目の色まで変わる。
それにいつもより霊派を上げないと使えないくせに効力は半減すると来た。

いつもならすぐに使えるのに。面倒くさい、と少しだけ思った。


「……くっ……」


うなり声を上げてシルマが上体を起こす。


「どう?」
「なんとか、な……」


確かに記憶操作術に使われてあった神力は薄れているようだ。
比例して、目にまであった紋様は今は額で収まっている。

全く。早く思い出せばいいのに。

昔の出来事を彼は覚えていない。一部だけ。
もしも覚えているのなら、とうにこの問題は解決しているだろう。

あたしは知っている。あの少年が完全に生まれ変わりだということも。
それを告げてやるのが問題解決の一番の近道なのだろう。
けれど告げてやったところで彼自身が思い出さなければ意味が無い。
それにこれは神族と魔族、人間の問題だ。死神が手出ししたところでどうにかなるだろうか。
なら、あたしは思い出すその時まで、記憶を匂わせることを話して傍観するだけだ。

これじゃあ、まるで“あいつ”みたいだ。

掴みどころの無い同僚の事を思い出して彼女は苦笑した。
そういえばあいつは『語る』のが得意だった。


あたしは知っている。あの出来事も。
あの『ガーディアン・カルテット』の三人のことも。
きっと、そろそろ“始まる”んだろう。


「それじゃあね。クレイスもそろそろ終わってるだろうし、あたしは戻るよ」


『死神』の彼女は、大分落ち着いたシルマを背に去ろうとした。
けれどそれをシルマが「待て」と静止する。


「お前は……何故知らせた?」
「なにをよ?」
「『ライズ』のことについてだ」
「言ったじゃないの。忠告だって。それにさ」


彼女は一度言葉を切ってそして告げた。
これは教えてもいいだろう。


「天界の上層部は、もうこの事態を知ってるよ」


あたしは知っている。一連の出来事を。
傍観するだけの協力者。それ以上は手出ししない。
と、言うよりも、出来ないんだけどね。


「じゃあね。無理はせずに、早く思い出しなよ。改転生族さん?」


彼女はそう言い残して出て行った。

 

 

back top next


アトガキ。

なんですか、これー……。ははははは。
いつも以上に確信に近づいてきたような気がしないでもないけれど訳が分からない(お前が訳わかんねーよ!!
『死神』の彼女は予定している別の話で出てきます。
ってか長くなったなぁ。