「ヤバイってー! 早く! 早く振り切れー!」
「五月蝿えな」
 そんなやりとりが、荒野に響き渡っていた。

 

File 1 :[異端な放浪者]-08

 

「ち、近い近い近いっ、ああああ」
「五月蝿え……」
 情けない声を上げているリーザス(サイドカーに乗っている)と、舌打ちをしつつ呟くケイル(運転手)。彼らは街を飛び出した後に、荒野を走っていた。そう。荒野を。

 ここで言っておこう。荒野の事を語るには、まず初めに《三つの災害》の事が挙げられる。
 まず一つ目は、砂嵐。季節風の影響で砂が巻き上げられて引き起こる現象だ。これは季節の変わり目に起こるので、今が何月なのかを把握しておけば、まず安全だ。
 二つ目は、植物。これの一体何が問題なのかと言うと、ある程度まとまって存在しているものならまだしも、荒野に一つ二つ、点々と育っている植物は大抵が有害な物質を含んでいるということだ。人体に有害な毒性を持っているものもあり、興味本位で、ほんの少し触れただけで異常をきたしたという例も少なくない。下手に近づかないほうがいい。
 そして三つ目は、獣だ。荒廃した土地で生き残るために進化し、そこらの動物よりも身体能力が高く、凶暴な生き物。獣への対抗手段を持たずに荒野に飛び出そうものなら、食い殺されるのがオチだ。だが大抵の獣は機械を怖れているため、一番の安全策は、乗り物でさっさと移動する事だ。

 そして彼らは今、三つ目の災害───獣に追われている真っ最中だった。
「だって、すぐ後ろっ、後ろにいるってー!」
 リーザスが、ひいぃぃ、と喉の奥から声を出して、頭を引っ込める。獣が借り物のバイク『ウィアロ』に追い付こうしているのだ。今にも飛び掛かってきそうで恐ろしい。しかし、返ってきた言葉は冷静だった。
「見りゃあ、分かる」
 そりゃ分かるだろ───と、リーザスは片隅で考えたものの、後方から迫ってくる獣から目が離せなかった。
「分かってんならスピード上げろよ!」
「出来ねえな」
 ───これまた冷静なお返事で。「僕は怖くありません」ってか!
 たっぷり皮肉を込めて毒づきたい気分になったリーザスだが、やっぱり獣から目が離せない。しかし、そんな時に最悪な宣告が降り注ぐ。
「燃料切れだ」
「はぁ!?」
 リーザスは少しばかり無理な体勢でケイルの方を見た。一方、ケイルはメーターを険しい目つきで見ている。
「冗談じゃねえよ! 『P.M.E.R.』に着くまでは、余裕で足りるはずだぞ?」
「警備の奴に穴、開けられたな」
 穴? 彼の謎の言葉に首を傾げるも、思い当たる事が一つ。さっきよりも無理な体勢でリーザスは『ウィアロ』本体を眺めた。すると、どこからか───間違いなく、エネルギータンクだろう───ちょろちょろと水が流れている。
「げ。ど、どんだけの威力で……」
 そうしている間にも『ウィアロ』はどんどん減速していく。獣との距離は縮まり、唸り声が間近に聞こえた。鋭い爪に鋭い牙。こんなのに飛びつかれたら、ひとたまりもないだろう。
「い……ど、どどど、どうしよ……」
「……降りるか」
「へ? 降りるって、ちょっと」
「こいつも、持って、あと二十秒だな」
 いつの間に『ウィアロ』の操作パネルを呼び出したのか。淡く発光するホログラムウィンドウには、赤い数字が表示されている。残量が無くなるまでのカウントだ。
「う、うっわー、いきなりそんなこと言われたってもー」
「じゃあ死ね」
 ───死ね、て。
 ケイルはきっぱりと言いきった。確かに、このまま『ウィアロ』と共に停止したところで獣に襲われるだろう。それにしても随分な言い方だ。
「その言葉……シャレにならん」
 いくらなんでも「死ね」宣告はないだろうよ。と、リーザスは言いたかったが、口論してる暇もなさそうだ。
 カウントは、もう十を切っている。
「あぁー、あと、五、四、三……」
 二、一、 ────〇。
 表示されている数字は完全に止まり、それを告げる高い電子音が聞こえる。同時に、急激に速度が落ち始めた。この時を狙っていたかのように、獣達が飛びつこうと一斉に跳ね上がる。
 ケイルは座っていたシート部分を台にして高く飛び上がった。そのまま足の屈伸を上手く使って着地する。一方リーザスは砂避けのカバーがついた、狭い、おまけに本来ならば荷物用のサイドカーに、ほぼ無理矢理乗っていた。そうそう体勢を整える事が出来るはずもなく、何とかギリギリで飛び出し、地面を転がる羽目になった。

 

「…………いってぇー……」
 頭を抱えて地面に倒れたまま呟く。視界がグラグラと揺れる度、脳まで揺れているようで気持ちが悪い。少し、吐き気がした。抑えるために一度、目を閉じて息を吐く。再び目を開けた時には、銃声が聞こえてきた。はっとして上体を起こして……うっ、ゆ、揺れる揺れる……気持ち悪ぃ……辺りを見回す。すると銃声の主は、追ってくる獣の相手をしている最中だった。
 飛び掛かってくるものは身を低くして避ける。もしくは真横に避けて腹に回し蹴りを食らわす。そうすれば、ギャン、と鳴いて獣は吹っ飛んでいった。少なくとも、五メートルは吹っ飛ばされたんじゃないだろうか。
 確かに、確かにな。自分の足で街と街を移動する以上、獣相手に戦う羽目になるのは知ってた。見た事もある。実際、対抗手段に体術使ってる奴がいるのも知ってる。でも、あそこまで獣を吹っ飛ばすってのは見た事なかったなー……。
 と、あまりの戦いっぷりに驚いていると、低い唸り声が聞こえた。いや、まさか。目だけを動かして、横を見る。
 ───あっれー、なんか毛深いもんがあるんですけどー? 誰だよ、こんな所に毛皮落としていった奴ー。はははは。
 ……なんて、苦しい現実逃避してる場合じゃなかった。
 目が合った瞬間に吼えられた。対抗してるわけではないけど、うわ! と叫び声を上げて、降り掛かってくる爪を転がって避ける。反動で地面に手をついて起き上がり、とりあえず距離をとった。
 少し下がった分、唸り声が大きくなり目がギラギラと光っているように見えた。こういう時は目を離しちゃダメだ。それは充分、分かっていたはずなのに。
 一発の銃声が合図。同時にいきなり頭痛がして目を外してしまった。

 ───あ。

 視界を戻した時には、獣が飛び掛かってきていた。
 ただ自分でも驚く事に、割と冷静に状況を判断していた。
 こいつは、ただ避ければいい───少しだけ上体を反らして真横に避ける。そうすれば鋭い爪も牙も当たらない───ぎりぎりで避けた。
 爪が服を少し掠めたようで、腕の部分が裂けている。そのまま左足を軸に獣の方を向く。着地した獣はすぐに振り返って、走って近づいてくる。その時に───
「食らえ!」
 また飛び掛かろうと跳ね上がった獣の喉元に、右足を滑り込ませる。また爪が掠めたが、構わずに勢いに任せて蹴り付けた。すると鳴き声を詰まらせながら地面に落ちる。
 痙攣してるが、襲いかかってくる気配はない。どうやら一発K.O.が決まったらしい。
「見たか! これが『昔とったきねづか』ってやつだぁ!」
 と、誰に言うでもなく叫んだ。
 小さい頃の話だ。よく遊びだと聞かされて身体を動かしていたことがある。それこそ、とっさの獣対策の……まあ、型とか無茶苦茶だったけど。最近はこんな風に身体も動かしてなかったから、正直、決まるとは思っていなかった。
「まさか本当に獣相手に通用するとは思わ……」
 ……しまった。倒したのはいいが、痛い。
 後からじわじわとやってきた痛みに、右足を抱えながらしゃがみ込む。そういや昼間もドラム缶蹴って足痛めたっけなー。と、思い返した。
 でも、すぐに痛みに構っている場合じゃない事を思い出す。振り返ると、あの『犯罪者』がまだ二、三匹残っている獣を相手にしていた。

 

 残っていた銃弾は撃ち尽くした。予備の弾丸もない。なんだかんだで補充が出来なかった。
 最悪だな、と呟いた。
 飛び掛かってくるやつは、避けるか、蹴るか。街と街を渡り歩く時の常套手段だ。力を込めて蹴り付けてやれば軽く吹っ飛ぶ。ただ、今日は少しばかり調子が悪い。二発目を打った時に頭痛がしたが、それが原因か。
 そもそも、俺は一体何やってんだろうな。
 逃げるなら逃げるで、一人で来ればよかったわけだ。何でわざわざ知らねえ奴───無駄に人を食ったような奴から、バイクなんか借りて逃げ出してきたんだか。確かに、自分の足で移動するよりはマシかもしれねえけど。
 お互いの為だ、協力だ、とか何とか言いながら、知らねえ奴と逃げてきたわけで。第一、顔を覚えてたら特徴を吐けるだの、微妙な理由で一緒に逃げてくるってどういう事だ。まあ、名前はまだしも特徴まで出回ったら困る事は困る。捕まらねえ自信はあるが、動きづらくなる。
 結局、お互いに利用して利用されて逃げてきたわけだ。
 この前から、どうも調子が悪い。周りに流されてる気がする。……気がするっつうより、流されてるな。完璧に。
 何となく腹が立った。そのせいで思わず力が入ったらしい。蹴りつけた獣が妙な声を出して飛び、地面を何回か跳ねながら痙攣していた。
 気がつけば周りにいた獣は居なくなっていた。どうやら全て追い払ったらしい。
 やれやれ、と溜め息をついたところで……なんだっけな。名前。とにかく黒髪の奴が向こうを向いて「ぎゃー」だの「うわー」だのと騒いでいた。なんだ、さっきから叫びっぱなしじゃねえか。
 何回目になるか分からない叫び声を聞いて、五月蝿えな、と言いかけた。が、視界の先にはさっき追い払ったばかりの獣と全く同じ姿をした集団が向かってくるのが映った。
 なるほど。仲間に呼ばれたか、生きている肉の匂いを嗅ぎ付けたか。どれにしても標的は間違いなく俺らだろうな。
 今度はあれだけの数相手にしろってか? 面倒くせえ。
 思わず舌打ちをした。
 少なくとも二十はいる。追い払うことも出来るだろうが、弾丸が切れてる状態じゃ蹴り付けるしか手段が無い。いちいち一匹ずつを相手にしたら時間がかかる。それに隙も出来る。おまけに今は、あの叫んでる奴まで一緒だ。俺一人ならまだいいが、あっちは確実に殺られるだろう。
 死体は、見たいとは思わない。獣の死骸なら何度も見た。ただ、人の姿をしたのが動かない肉塊に変わるのは、あまり見ていて気持ちのいいものじゃない。
 人間……同族だからか? 同族と言うのも怪しいが。
 それをこのまま見殺しにするのも後味が悪い。
 だから、目を閉じて集中した。

 

「さっきよりヤベエェェー! なんだ、あの数!?」
 砂煙を巻き上げながら近づいてくる集団に、声を上げた。地響きまで聞こえてくるのは気のせいか。
 両手で頭を抱えてみても意味がない。『ウィアロ』を修理と言っても、あいにく直すためのものを持ち合わせていない。そして燃料になる水も持ち合わせていなかった。くっそー、なんでこんな時に! と嘆いても仕様がない。
 はーい、オレがなす術、無し。ピーンチ!
 あああ、と言っていると、ふと背筋が寒くなった。寒くなると言うより、射殺されそうなほどのピリピリとした空気が伝わって来たと言うべきか。
 獣が向かって来るから感じていると言うのであればおかしい。獣が向かって来た時点でとっくに頭から血の気が引いているので。多分青ざめてんだろうなー。そういやいつだったか、貧血でぶっ倒れた時にも「わぁ、本当に顔色青くなってるー」って言われた時があったっけな。自分じゃ見てないから、どうなってんのか分からんが。
 ……そうじゃない。ピンチなんだって。今の最悪な現実は見たくないだろうけど、逃避したらもっとヤバイんだって!
 前を見た。獣の集団が迫って来ている。鋭い爪に鋭い牙。あれを防げるものは、数える程しか無い。
 うん。やっぱ、なす術、打つ手、なーんも無いわ。この辺でこの世ともおさらばかなー。短かったけど皆さん、さよーならー。……って、あー、また逃避した!
 逃避してる場合じゃない! と、自分を奮い立たせるように頭を振る。また前を見る。逃げる手段が無い以上、相手にしなきゃいけないだろう。でもこの数じゃ、死ぬ覚悟で相手しないといけないかなー。生きてられっかなー。そりゃ死にたくないです。こんな災難続きの終止符が、自分の無惨な死に様とか嫌ですよ。当たり前だけど。
 ちゃんと還れ……じゃない、帰れますように! と手を合わせた。知ってる誰かが居たら「無神論者な癖に何やってんの」と言われそうだ。
 うん、神様信じてない。信じてないけど願掛けします。せめて希望持たせて下さい。

 ───でも、そこまでだった。

 はい、さよーならー。オレはお空に還りまーす。
 ……違うっつの。還ってません。生きてます。
 何が起きたのか。何故か数メートル手前で獣が止まってる。しかも情けない鳴き声を出しながら。さっきまで凶暴そうな目をしていたのが、うって変わって怯えている。
 一歩、また一歩と下がっていく。その中で一匹が前に飛び出して来た。ただ進路方向はオレの方じゃない。もう一人の方だった。
 ただし、向かっていった獣はあっさりと蹴られた。
「って、えぇー!? 何だあれ半端じゃねえ!」
 ほとんど地面と平行に飛んでいく獣の身体。さっきも蹴って倒しているのは見た。だけどさっきよりも飛んでねえ? 気のせいか? だって、あれだぞ、蹴られて五秒くらい経ったけど、まだ飛んでるぞ。どれだけ脚力ありゃ、あんなに飛ぶんだよ。そういやあの街の塀の上まで跳ねてたし。
 それより、何の対決だ。こりゃあ。
 イマイチ現実味がない光景に呆然とした。
「つーか、死ぬかもしんねーってのに、わあわあ一人で騒いじゃってるオレは一体」
 今まで意識してなかったけど、意外と神経図太いのか? うーん、と無意識に地面に胡座をかいて腕組みをした。
 ……うん。図太いみたいだな。
 普通、こんな状況で、こんな事、冷静に考えないっつの。しかも胡座かいて。
 分かった途端、何故か凹んだ。
 い、いやー、なんて言えばいいんだろ。デリケートじゃ無いのは知ってたけど、自分でもここまで図太いとは思ってなかったわけですよ。うん。それともあれか。今日は朝から無茶苦茶な事起こりすぎたから感覚麻痺してきてんのか。そうだな、きっとそうだ。
 と、また背筋が寒くなる感じがした。

 

 目を開いた。そこに居る相変わらずの大群に、まだ居んのかと舌打ちをする。
 いちいち飛び掛かってきてんじゃねえよ。分かんねえのか? ぶっ殺すのは簡単な事くらい。言ったところで獣が理解する訳、ねえか。───普通なら。
 ありったけの“気”を込めて言ってやった。
「失せろ」
 目が、先頭の一匹を捉える。
 ───ああ、これなら。近づいて引き裂いて引き摺り倒しそのまま地に叩き付けるだけですぐ終わる。人のものであるはずの爪が、ひ弱なはずの爪が肉を引き裂きたがっている。耳が騒ぐ音を捉えていた。血が騒ぐ音を。巡る血は過去から継がれてきた力を振るえと訴えていた。ならば、このまま───……落ち着け。すぐにでも殺せるが、殺すために力を出しているわけじゃない。
 それでも足は獣の方へと一歩一歩近づいていく。
 止まれ。何だ? おかしい。いつもなら、こんな───落ち着け。
 半分自由にならない意識を奮い立たせる。
「失せろ」
 再び言うと、獣が一匹ずついなくなる。
 そのうち集団がいなくなったところで、隠すように目を閉じた。

 

 はっとすると獣が一匹、また一匹といなくなる。最終的には集団が。あれを尻尾を巻いて帰るって言うんだろうな。と思わせる逃げ方をしていった。
 ぶっちゃけ何が起こってんのか、さーっぱり分からん。
 命拾いした事だけは確かなんだけど。
 どうも、ありえねえ事っつーか、ピンチになりまくったせいっつーか。感覚麻痺してて、いまいち「うわぁよかった! 助かった!」って実感がない。
 ま、まあ、とりあえず助かったみたいだし。バンザイとは言っときましょか。
 バンザーイ、バンザー……ダルイ。
 砂を落として立ち上がる。まだ少し足が痛んだが、そう気になるほどの痛みでもなかった。
 それと犯罪者(知り合いでもねーのに、名前呼ぶのも変な気がするからとりあえずこう呼ぶ)は、ピクリとも動かないで立ち尽くしてたかと思うと少しずつ歩き出した。とりあえずこっちに向かって来ている。
 十数メートル先に転がったままのウィアロが見える。遠くから見ても分かるな、結構酷いことになってる。あれも直さねえといけねえんだろうなー。何日かかるんだか。その他にもまだ直すもんがあったっけなー。と思い出して、がくりと肩を落とした。
 とりあえず近づき……あー、見たくない! こんなすんげぇ直すの大変そうなもん見たくなかったよ、オレは!
 あーあ。と溜め息をついて、とりあえず何とか車体を起こして、押す。
 押す。
 押した。
 押したんだよ。
 …………全く、動かん!
 コノヤロー、無機物のくせしてケンカ売ってんのか。
 うう、ぐぎぎぎぎ、と、妙な声を出していると、犯罪者がいつの間にか近くに来ていた。そして一言。
「何やってんだ」
「見て分かりませんかねえぇ〜、動かそうとしてんですよ、変なもん見るような目つきで見ないでいただけやしませんかね。そこの放浪者!」
 言ってみるが効果も何もありゃしない。逆に「はっ」と音が聞こえてきた。
 うわ、鼻で笑いやがった。
「動かしゃあ、いいのか?」
 オレを退けさせるとハンドルに手をかける。そのままぐっと前へ押すと、あらまあ、いとも簡単に動くじゃありませんか。しかも押し続けてる。
「うげ。どんだけバカ力……」
「どこに持って行くつもりだ?」
「ああ?」
「押せねえんだろ」
「ん?」
「……持ってってやるつってんだよ」
 理解力ねえな、と呟いたのが聞こえてきた。
 な、なんか、鼻で笑われた事といい、オレさっきからバカにされてねぇ?
「……おい」
「ん? あ、ああ、とりあえずこっちだな。そんなに距離は無い……ハズだ」
 なんだかんだ言いつつも、結局『P.M.E.R.』まで約三時間、ウィアロを押してもらう事になった。

 

 それが明確な始まりであって。しかし翻弄される者には予期せぬことで。
 これから何が変わっていくのか、予測出来ずに迷うのだろう。
 そんな迷い子に幸あれ、と傍観者は呟く。
 知っている故に進もうとする者と、知らなすぎる故に進めぬ者へと。
 彼らが望まなくとも、真実はゆっくりと動きだし、近づいてきた。

 結末は分からない。
 進んだ結末がどんなに不幸であろうとも、もはや戻るべき道は消えかかっている。
 進むしかないのだ。
 進むしか、なかったのだ。
 しかし彼らは、そのことさえ気付かずにいた。

 

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