※闇屋……闇取り引きをする人のこと。第2章《獣狩り》
1.【見えない獣】
その日はいつもと何一つ変わらない朝だった。
シーファの店が直ってからと言うものの、店にはこれまで以上に客が押し寄せた。 何故かって、そりゃあ『高等魔法使い様』を一目見ようって奴らが多かったからさ。 噂ってのはあっと言う間に広まっちまうもんだ。
何で集まるかって、そりゃあこんなお偉いさんが滅多に人目に現れることなんてないし、何よりここは機械推進してる先進国『メシャニーゼ』寄りの国だぜ? 魔法使いなんて追い出されて寄り付かなくなっちまったよ。ここはただの中立国だってのに。全く、嫌だねー。俺らあの二国の喧嘩なんかに関係ないのにさ。魔法が好きな奴だっているのになぁ。
ん? 俺が誰かって?
俺はその高等魔法使い様とやらを見に来た客の一人さ。
ま、ちょっとばかし“頼みごと”があって来たんだがね。
「あれ?」
そんなこんなで店に入ってみると、思ってた以上に騒いでいなかった。
客はいるけどほとんど静かだ。珍しいな、これっぽっちも騒いでないなんて。
てっきり「魔法を見せて下さい!」ってな感じで魔法使い囲んでる団体でも出来てるとばかし思ってた。そんでそん中で例の高等魔法使い様が魔法を見せてて。ここに魔法使いが来るといつもそんな感じなのさ。
けど今回はそうじゃなかった。
客の視線のほとんどはある一人に集中してる。
それも変な客だった。いや変だからこそ視線が集まってるのかもな。
そいつはカウンターの一番端にいた。
頭からすっぽりとローブを被ってて、怪しいというか何というか、人を寄せつけない感じだった。
おいおい、まさか闇屋……にしちゃあ、ちょっとばかし浮きすぎか。
闇屋ってのは目立っちゃ意味がねぇ。目立ったら宮殿に見つかってとっ捕まるだけだ。影に居て商売をするからこそ闇屋ってもんなんだ。……何で詳しいとか聞くなよ。
「おや、クロムじゃないか。久しぶりだねぇ」
ん? と、名前を呼ばれてあの変な客から目を離すと、カウンターにこの店の主人のシーファがいた。俺が近付くと向こうはカウンターから手を拭きながら出てきた。
「どうも、相変わらず別嬪さんで」
「いやだね! お世辞言ったってここは安くならないよ」
「ちぇ」
軽く舌打ちするとシーファが「あはは」と笑う。それに足して周りの客の笑い声が混ざるのがいつものやり取りだ。けれど今日はシーンとしてこっち見てるだけじゃねぇか。気味が悪ぃ。 軽く手招きしてシーファが耳を貸してから「今日はまたどうしたんだ?」とこっそり耳打ちする。
「何が?」
「おかしいじゃねぇか。高等魔法使い様が来てるってのに、何で客がこんな沈んでるんだ?」
「ああ、それね」
「『ああ、それね』って。いいのか? この調子じゃ商売上がったりだろ」
「ははっ! あんたが店を心配することないだろ」
「いやいや。ここが潰れちゃ、まともな所がねぇのさ。それとあの妙な客は何なんだ?」
目で示しながら言うと、シーファもそっちを見た。するとさっきと同じように「あはは」と笑い、こっそり教えてくれた。
「あれが高等魔法使い様さ」
「い!?」
おいおい、あの客が高等魔法使いだって?
確かにこの雰囲気からして魔力を持ってはいるみてぇだし、着てるローブは上等そうだし、って……あ。
「なるほどな」
「ま、あたしも最初は気付かなかったんだけどさ。あははは!」
「おめぇさんはよく笑う女だな」
背中をバシバシ叩かれながら返す。女の腕力だし大したもんじゃないにしろ、そのせいで「ぐぇ」と間抜けな声を出した。
「で? 今日は何にする?」
「あれ、頼む」
「はいよ」
シーファはそのままカウンターに戻り、俺はあの客の所に向かった。それを他の客は視線で追う。
注目されるってのは悪くないが、どうも落ち着かないな。
「隣いいかい?」
魔法使いの方は答えない。不愛想にもほどがあるってもんだぜ、おい。うんとも良いとも言わないから、そのまま座った。
そこにシーファがグラスを一杯持ってきた。それを受け取って飲み始めると、魔法使いの方はカウンターテーブルに手を付いた。立ちあがろうとしているらしい。すぐにそう気が付いてある一言を口にする。
「ちょっと頼みがあるんだが。聞いてもらえませんかねぇ」
「断わる」
「ま、聞くだけ聞いてくださいや。高等魔法使い様……いや“悪魔様”?」
「……どういう事だ」
すると魔法使いは一度出した手を元に戻した。
「なに、ちょいとばかし考えれば分かることで」
「『魔力片』か」
「なんだそりゃ?」
「簡単に言えば、人を包む魔力のオーラの事だ。誰でも持っているが、魔法使いは特に大きい」
「ふーん。よく分からんが、それは違うね。本当に本当に簡単さ。 高等魔法使いになれるだけの優れた魔法使い。しかも顔を隠している。さらにはどこか人を寄せつけない雰囲気。それが……なんだ? 『まりょくへん』ってやつなのか? 人によんのかもしんねぇが高等魔法使いとか、それこそ位の高いお偉いさんってもんは、もうちっとえばってるもんだぜ」
「本当に本当に簡単、ね。勘が鋭いな。魔法使いという訳ではないみたいだが、見たところ狩人か何かか?」
「そうか? 別に普通に考えれば分かると思うけどなぁ。あんたこそ鋭いじゃねぇか。その通り。俺は<獣狩り>をやってる。なんか自慢してるみてぇだが『獣狩りのクト族』って言えば、結構名が通ってると思う」
「クト族か。なるほどな、どおりで……」
何に納得してるのかは分からねぇが、向こうは話に乗ってきたみてぇだ。一度座り直して、手を組んでカウンターに両肘をついた。そしてこっちを見る。
影になって見えづらいが、多分、眼は紫だ。間違いない。
「で。話は聞いてもらえるんですかね?」
「仕方ない。とりあえず、聞いてみようじゃないか」
なにが仕方ないのかこれまた分からねぇが、こっちにとって好都合にはなった。
「あんた、仕事を手伝ってくれる気はないか?」
「獣狩りをか?」
「あー……ま、そうといや、そうだな。この前とある集落から獣狩りを依頼されたんだ。話を聞く限り、報酬も見合ってたし、俺らはそれを受けた。そこまでは良かったんだが……」
*
木が生い茂る山の中を何人かの人影が動いていた。木に手をついてジッと見ていたと一人が、別の一人に声をかける。
「おい、そっちになんかあるか?」
返ってきたのは、まだ幼さが残る少女の声だった。
「ないよー! 引っ掻いた跡も足跡も、何にも残ってない!」
「おかしいな。まさか出るってのは嘘じゃねぇだろな……」
そうぼやいたのはクト族のクロム・クト。今、彼を含めた五人のクト族は、この山の麓にある村に獣狩りを頼まれてここ、特に名もない西の山に来たのだが、どうにも獣が現れず、首を傾げているところだった。
おかしいな、と、もう一度山に来る前の集落の状態を思い出してみる。
『獣が来て、畑も何もめちゃめちゃにしてしまったんですわ』
老人がそう言って畑を指した。自分の畑なのだろう。
確かに、土がこれでもかと言うほど掘り返され、その上には足跡と植えていたであろう植物の残骸があちこちに散らばっていた。
『あー。これは確かに酷い』
クト族の青年が少し飽きれぎみな反応でそう返す。すると老人は『こりゃ本当に困りもんですわ、全く!』と、今はいない獣に向かって腹立たし気に言った。
すると今度は後ろから『こっちは家までやられたわよ!』と女性の声が聴こえる。さっきとは別のクト族の青年がそれを見て『あちゃー』と声を上げた。クロムも振り返って思わず同じ反応をする。
『こりゃ一番酷いかもな……』
その家は、木の板と布で出来ていた屋根が落ちていた。中に入って上を見上げれば、外に出なくてもさぞかし空が拝めるだろう……。屋根になっていた木は折れているし、布はもうボロボロだ。それに木の壁に大きい傷───恐らく爪痕だろう───が残っていた。
『何だろこれ。<狂狼 >かな?』
クロムの隣にいた少女、クロムの娘のセリア・クトが、爪痕に近付いてジーッと見ながら言う。
『多分違うな』
クロムが答えた。するとセリアはむー…と唸りながら考える。
<狂狼>と言うのは、狼にしてはあまりに奇抜な動きをすることからつけられた名前だ。だが、気性が荒いと言う訳でもなく、人が苦手らしい。村などの集落を避けて生活している。まぁ、小数の人間相手なら話は別だろう。
『あ、分かった。<警狼 >だ!』
『ありゃ、逆に人に懐くくらいだ』
『うーん、じゃ、<炎狼 >?』
『……なんで狼から離れないんだ?』
『え、だってこの跡、なんとなく狼かなーって』
『セリアちゃん、それは少し早とちりしすぎだよ』
横からクト族の女性が来てセリアに声をかける。少し落ち込んでしまったように見えたので、女性はその後に付け足した。
『セリアちゃん、これが初めての仕事でしょ? 仕方ないよ。誰でも最初から優れてるなんてことないんだからさ。そう焦ることないって。わたしもそうだったし。ゆっくり慣れていけばいいんだよ』
そこまで言って頭を撫でてやるとセリアは『うん』と頷いた。それに『よしよし』と言って女性は立ち上がる。 その後クロムに近付いて、まるで何かを誤魔化すように笑いながら言った。
『すいません、あれ大将の台詞でしたね』
『いや、いいさ』
クロムが含み笑いをしながら返す。大将と言うのは紛れもない、クロムのあだ名だ。大柄ながら、人がいい。いざと言うときに頼れる。少し抜けているところもあるが。そんなクロムはクト族の仲間達にとって兄貴分と言うか、そんな感じで、いつの間にかあだ名がついていた。
『大将、ちょっとこっち!』
クト族の青年が呼ぶ方に行く。『これ』と地面を指差すので見ると、何かの跡が残っていた。
『見たことねぇが、獣の足跡だろうな。こりゃ』
『新種か?』
『多分な。いくら獣でも普通はここまでやらないさ。だとすれば、気の強い奴が出て来たのかもしれない。食糧集めにしては、持ち帰ってねぇみてーだしな』
『あの、依頼は受けてもらえるんで……?』
一人の村人が恐る恐る近付いて来て尋ねた。
『ああ、まかせな。時間がかかるかもしれねぇけどな。ところで、一つ聞きたいんだが』
『はい?』
『最近、土地を新しく切り開いたとか、そういうことはしなかったか?』
『いいえ』
『そうか。ならいいんだが……』
そうしてクロムは考え込んだ。
後で足跡が山に続いているのを仲間が見つけ、それを全員で追って来たのだが、足跡はこつ然と消え、今に至ると言う訳だ。
(あの爪痕、狼にしては少し大型だったな……何だ、熊か? でも冬越しの準備しては早いし、畑の野菜そんなに食ってもいないみたいだったしな)
さっきから見ている木をバシバシと二回叩きながらさらに考える。
(爪とぎ……いやいや、人里まで降りてきてか? それにここらの木もそれが出来ないほど柔じゃない……)
ふと、上を見上げる。
一羽の大鷲が翼を広げて頭上を通り過ぎていった。
ガサリ、と何かが動く音に横を見ると、ただのウサギだった。
それに、あの未だに見つからない正体不明の獣かと少しでも期待してしまった自分に舌打ちする。
足元を見てみる。
踏みならした為に土が少し掘り返され、踏んでしまった雑草が足の端から見えていた。足を退けると、雑草はゆっくりと起き上がって来た。
その横を一匹の虫が歩いていく。
見る限り、ここはなんて事のない山だ。この中にあの村に降りて来た獣が居るとは思えないほど静かすぎる。
そう、静かすぎた。
(……この山から降りて来た訳じゃねぇってか?)
正体が掴めない事にだんだんと自信がなくなって来る。
けれど、長年獣相手に鍛えられたクト族の感覚は半端じゃない。獣の、俊敏で理性の変わりに本能で動くその身体は、人間の運動能力と感覚を遥かに凌ぐ。弱肉強食とはそんな彼等の事を指して作られた言葉。弱者は強者に負けて食われる。獣に本能しかないとしても、そのルールだけは絶対だ。
運動能力で勝っている獣が人を狙う、と言う事も少なくはない。逆に死した強者が弱者に食われると言う事もあるが、それも自然のサイクルで、当たり前のこと。
そんな獣に対抗出来るほどの感覚を身に付けているのが獣狩り師だ。
獣狩り師の集まる一族の中でも一番と言われるクト族の歴史を辿っていくと、獣相手に勇敢にも向かっていった者達の流れを組むのだと言う。
この世界には昔から魔法もあったし、魔法で獣に対抗しようとすれば出来たが、獣も昔の方が強力だった。普通の魔法使いが三、四匹、獣を追い払えば大したものだった。
普通の人々は怯えて逃げているばかりだった。だが、中でも武器をとって魔法使いと共に獣に対抗した者達もいた。それが獣狩り師のそもそもの始まりだった。
そんな状態が長年続き、やがて彼等は段々と獣と対等と言えるほどの感覚を身に付けた。
獣相手に武器をとったか、とらなかったか。 それだけの違いだった。獣がここに逃げ込んだのでないとすれば、優れた感覚を持つ彼等の内、誰かが気が付くはずだ。
今回は特に優れている者達で構成して仕事に来ている。
クロムの娘は今回が初仕事になるが。
「おい、一度降りるぞ」
クロムがそう言うとまばらに返事が返って来た。
「全く正体が掴めないって、おかしすぎますよ」
クト族の女性がそう一言。
彼等は山を降りてとりあえず一晩、様子を見ようと決めて外で暖を囲んでいた。
女性の言葉に他のクト族の青年も同乗する。
「ルエルの言うとおりだぜ。何で足跡に爪痕、村にははっきり残ってんのに山ん中に一つもねーんだ?」
「途中で進路変えたとか」
「だったら誰か気付くだろ。あれはど―考えても途中で消えたとしか思えない。 大将、何か気付いたことあるか?」
「さっぱりだ。色々考えてみたが、どう考えてもおかしい」
「……獣じゃない、のかな」 セリアがぽつりと一言。 それにさっきの青年は「まっさかー」と返す。
「あの爪痕は獣で間違いないと思う。けど……」
「なーんか匂う、ってか?」
「そんな感じ。あ、あたしの気のせいだろうけどさ」
顔を上げてセリアは付け足す。青年の方は大して深くは考えなかったのか「ふーん」と返しただけだったが、クロムは少し考え込むような顔をした。そして、夜も深けて夜中になった頃。クト族の五人は起きて近くの茂みに隠れていたが、村人は少し怯えながらも寝静まり、辺りはシンとしていた。
ただ、昼間に登った西の山からホー、ホーとフクロウの鳴き声と、バサバサと鳥が飛ぶ音が響いていた。
クロムが横を見ると、セリアは気のせいか、少し緊張した顔付きをしている。獣に見つからないようにと火は消してしまったが、月明かりでそれが分かった。
「怖いか?」
「ちょっとだけ」
「大丈夫だ。皆ついてるからな」
娘の頭を軽くポンポンと叩いてやりながら声をかける。
その時だった。
ガリ、と鈍い音がして、気が付くと近くの家の屋根に傷が───爪痕がついていた。
「いつの間に?」
思わず声に出る。その家の近くに獣の姿は見当たらない。
またガリリ、と鈍い音。
今度は向かいの家の壁がやられていた。
「なんだ? 大型の割に動き早いな」
隣にいた青年がそう言う。
今度はガタン! それに加えてバキバキ、ミシッと木が折れる音がした。
奥の方の家の屋根が落ちて割れていた。
「なにこれ、大型じゃなくてすばしっこい小型って訳か?」
「それにしては爪痕が大きすぎる」
もう一人の青年の方が一言。
「かかった!」
そのまま手を勢い良く引いた。その手にはロープが握られている。それは前もって仕掛けておいた罠に繋がっていて、獣を捕獲する。はずだった。
「なにが『かかった』だ。なにもいないぞ?」
「あれ?」
確かに手ごたえがあったはずなのに。と言いながらズルズルとロープを引く。けれどその先には準備していた罠の残骸があっただけだった。
「逃げられたのか?」
「みたいだな」
また音が響く。
村人は怯えているのか、一人も家から出てこない。
「仕方ねー、直接狩るしか……」
青年の一人が腰にあった短剣らしきものを抜く。鞘と刀身が擦れる独特の音がして、出て来た刀身はキラリと月明かりを反射した。が、クロムが名前を呼んでそれを止める。
「ロウ、無闇に出てってもやられるだけだ」
「でも」
「待って」
セリアが言った。
「この獣、早くて見えないんじゃない。姿自体が見えないよ」
「なんだって?」
クロムは娘の言葉に少し驚きを隠せなかった。
「どういう事だ?」
「なんか気がついたんだけど、近くから順番に家を襲ってるの。 あ、ほら! あそこ見てて」
セリアが一軒の家を指す。それを言われた通りジッと見ているとガリッ! と音がして、いきなり爪跡が現れた。
「なんだありゃ……」
「いくら早い獣でも、引っ掻くときくらい反動で少し遅くなるでしょ? なのに全然見えないんだもん」
「確かに。姿が見えないって訳だね」
クト族の女性───ルエルが納得した。それに獣を狩ろうと剣を出した青年、ロウが続く。
「擬態かよ。んじゃ、犯人はカメレオン辺りか?」
「ううん、擬態じゃここまで奇麗に見えないなんてことあるはずないよ。よく見れば動いてるときに、空間が歪んでるように見えるから」
「『見えない獣』ってか?」
「そういう事になるね」
「冗談! それじゃ獣じゃなくて、ほとんど霊現象じゃねーか」
そうしている間に引っ掻く音は止まり、辺りはまたシンとしていた。
家々が傷つけられている以外、獣が現れる前と同じだった。
「霊? そうか……」
クロムが何かに納得する。ん? と不思議そうにセリアが父親を見上げるが、クロムはそれに気付かない。やがて、夜が明けた。
数名の村人が出て来たかと思うといきなりクロム達に向かって来た。「獣がまた出て来たじゃないか」と訴え、責めるのをルエルが謝ってなだめたり、どうも血の気が多いらしいロウは逆に突っ掛かっていったり、それをもう一人の青年、ルイドが「まーまー、落ち着いて。どーどー」と止めたりと、少しばかり混乱が起きた。(ちなみにその後、ロウはルイドに「どーどーって、オレは馬じゃねーんだぞ!?」と怒鳴っていた)
色々あったが、そのまま獣狩りは続行される事になった。
*
「なんつうか、あんたにその『見えない獣』を狩るのを手伝って欲しいんだ」
「何故私なんだ?」
「魔法が関係してるんじゃねぇかなと思ったんだ。だったら俺達より、専門家に任せた方がいいだろ?」
「魔法か」
魔法使いは考え込んでいる。いきなりふっと上を見上げたかと思うとまた下を向いた。 上を見たときに髪が少し見えたが、やっぱりあの“悪魔”の魔法使いらしい。髪が銀だった。
「ただとは言わねぇさ。分け前もちゃんとある」
「そうじゃない。ただ……」
そこまで言ってまた考え込む。どうしようもねぇからグラスに残ってたのを一気に呷った。そのまましばらく時間が過ぎる。突然、魔法使いが口を開いた。
「分かった。これの何かの縁だ。手伝おう」
「お、そうこなくっちゃな!」
俺の置いたグラスがタン、と音を立てる。 そして二人が店を出ようと同時に立ち上がった。 「これ、勘定な」そう言ってカウンターに金を置くと、シーファが「いいよ」と金を戻した。
「あ? 一体どういう」
「この前色々あってね。一杯ぐらい奢るよ」
「珍しいのな」
シーファがチラリと魔法使いを見るし、横で魔法使いが肩を竦めた気がした。何があったんだ?
「今回の仕事、相手がなんだか分からないらしいじゃないか。まー、気をつけなよ」
「あ、話聞いてやがったな」
「嫌でも聴こえるよ、この距離じゃ!」
笑いながら自分と俺を交互に指差した。俺も「それもそうか」と笑いながら返す。
「さーて。じゃ、行くとするか!」
気をつけなよーと言うシーファの声と「あの二人、何で一緒に出て行くんだろう」とでも言いたげな客の視線を受けて、俺達は店を出た。