取り繕っているだけなんです
受け入れて受け入れて 傷付いてしまうのは もう嫌だから
もう一人の『自分』を造り上げて 代わりに傷付けているだけなんです
誰かの言葉に暴力に 傷付いたように見えていても 奥底では元の自分がほくそ笑んでいる

哀れんでほしいと思っているのかもしれない

“『この子』は可哀想な子なんです だからお願い どうか助けて下さい”

そうして誰かの優しさに縋り付きたがっている

『自分』を傷つけているのは自分なのに 傷付きやすくしているのは自分なのに

“誰が可哀想な子だ お前は私は自分自身は ただ悲劇を気取っているだけだろう”

元の自分が 造り上げた『自分』を そう罵るのです
そうして自惚れている事に気がついて 自然と涙が溢れ出て


取り繕っているだけなんです
自分が掴めなくて 確立していないから
あやふやな境界線 どこからが本当で どこからが嘘なのか
自分自身と言う名のモノを どう扱っていいものか

元の自分は 造り上げた『自分』を嘲っている
なんて馬鹿なんだろう 馬鹿すぎて反吐が出る と
けれど言葉にする度に痛むのは 造り上げた『自分』だけじゃなかった

誰かいっその事 この存在を否定し尽くして下さい
もう演じるのは嫌なんです

馬鹿な事をする『自分』
造り上げて演じて 罵られすらしない 疎外されて 白い目を向けられる
どんどん距離が離れていく
誰も居ない 誰も居ないから自分自身を罵る自分
過去の『自分』を笑う自分 それを“元”として 過去と現在を別格に見ている

多分初めから気がついていました
なんて虚しい事だろうか 
けれどそれ以外に方法を知らなかった

一体何をしているのだろう 『自分』を笑った後 虚脱感で溢れかえって
なんて自分は馬鹿なんだろう なんで演じてまで この時を過ごしているんだろう
分からない 分からないうちに また誰かに話しかけられた
そうしてまた『自分』を演じる そうしてまた疎外されて 馬鹿だと『自分』をあざけ笑って
気付いていても 止められないんです

誰か無限の連鎖から どうか引きずり出して下さい
出来ないなら せめてこの存在を否定して
同情や半端な優しさを向けられると また『自分』を演じるしかなくなってしまう
涙を流す時間さえ無くしてしまう

“大丈夫だよ 平気だよ 『この子』はこうして楽しく生きているよ”

そして覆い隠してしまう

助けてほしいと人任せ 呟きすらせずに演じ続ける
見破られるのは怖いからと 精密に演じてみせて

誰も気がつくわけが無い 誇らしげに思い 馬鹿だと思う
誰も気がつくわけが無い こうして隠しているのだから
何の手がかりも無くして 全てを悟る人などいない

助けて下さい 矛盾して矛盾して 止まる事の出来ない『この子』を
同じ事を繰り返し そうして誰も気付かない

本音を全て出してしまえば
この手には何も残らない それが分かっているのかもしれない
けれど全てをひた隠す事は苦しくて

演じて演じて元の自分が 一秒前の元の自分を 罵り笑い
一秒前の元の自分は 傷付き 遠くから見ている元の自分も傷付き

同じでありながら違っていて 違っていながら同じでいて
自分だと思いたくないのだ 馬鹿な事をしている自分を 傷付いた自分を

だから身代わりとして 一秒前の『自分』を差し出す
そうすることが一番の良策だと信じきって

だって誰も助けてくれないのだ 自分のことは自分で護るしかないだろう


“そろそろ全てが自分だと自覚したらどうだろう?”

どこからか声が聞こえました
全てが自分だと自覚しろ?  嫌だ

“どうして?”

だってそんなの苦しいじゃないか

“苦しいことも受け入れる それが自分を育てる一歩になるんだよ”

そんなの痛いじゃないか 嫌だ自分は何も悪い事なんてしていないのに

“痛み全てが罰というわけじゃない 逃げてばかりいたらダメなんだよ”

どうしてそんなことを言うんだ ほら見ろ お前のせいでまた傷付いた

“どこが傷付いたんだい?”

見えるわけないだろう だって傷付いたのは『心』なんだから
自分の胸を指差した
すると声は優しく呆れたため息をついて

“君は気がついているのかな”

遠くから語りかけていた声が いつの間にか自分の喉から出ていて

“今語りかけているのも 自分自身だってこと”

そうして声は途切れました


多分初めから気がついていました
自分を堕とすのも 救い上げるのも 自分自身だって事を
傷つけられて 自分で傷つけて どんどん深みにはまっていくことを

傷付いていないのに 涙が溢れ出て地面に落ちた
分かったよ やってみよう “全部”が自分だって信じてみようか


取り繕っていただけなんです
痛くて痛くて仕方がなくて どうして自分だけが痛みを抱えて苦しむのか
それが疑問で仕方がなくて

気付いていなかっただけなんです
痛みは誰でも抱えている事
 誰だって傷付くのを怖がっている事
“恐怖”と言う名前の檻に 自分を閉じこめ続けていました

進んでみようか 一歩だけ また自分自身で痛みを感じる事
怖くて仕方がないけれど それが生きている事でもあるから

さようなら 演じ続けていた自分 おかえり 演じ続けていた自分
これが全部自分であって ずっと傷付いていた自分であって
やっぱり奥では もう一人の自分が『自分』をずっと見ている

けれど逃げないよ もう嘲ったりしない
逃げたら前と同じで 自分自身を傷つけ続けてしまうから
向き合っていこう 分かりあっていこう

もう逃げないよ 分かったんだから
自分を助けるのも自分だってこと

誰かに助けてほしくて仕方なかった
誰かに頼ってしまうのかもしれない
そうして傷つけられる事になっても 逃げ出さないで向き合うよ

さようなら 傷つけていただけの自分 おかえり 傷付いていただけの自分
もう怖がらないで 全部一緒だから
傷つけたのも 傷付いていたのも 自分という『誰か』じゃないんだ

悲劇を気取る必要なんてない
同情されることで 誰かと同じ傷を抱えたかっただけ
意味がないことは気がついていた 自分が哀れだってことも


取り繕っていただけなんです
けれど今は一歩踏み出せました
『この子』と呼んでいた自分自身は やっと気がつきました
自分に傷付けられて 自分に背中を押されたんです


もう閉じこめないよ 『自分』という子を